走れ!タクシードライバー●2000中甸
 


みなさんは中国人が走っているのを見たことがありますか?ぼくは数えるほどしかありません。一回、自転車に乗って逃げて行く女性を大声出しながら追いかける人を見たことがあります。また出発しそうなバスに乗るために走って追いかける人も見たことあります。でも、そういうのっぴきならない場合以外で、たとえばホテルのフロントで早くチェックアウトをしたくて、早く早くとせかした場合など、従業員はわざとに違いないと思うほどゆっくり歩いてきたりします。絶対走って来たりはしません。

中甸のホテルの前から空港に行くために三輪タクシーに乗りました。タクシーはかなりガタガタで、屋根に頭が当たるくらいに激しく揺れていました。ガタガタガタガタガタガタガタガタと凄まじい音も立てていました。金具の一つや二つどこかで落っことしても不思議ではない揺れでした。道は一応舗装された田舎の中の直線道で、時速30km位 で空港に向かいます。町を離れて10分くらい行ったころ、突然タクシーは道ばたに停車しました。

壊れたか!と思いました。運ちゃんはタクシーを止めると
「没有了(なくなった)」
とぼそっと言い、運転席を降りて道具箱を開きました。そこから出てきたのはペプシの空のペットボトルでした。そして何も言わずに全速力で駆け出しました。

前を見ても後ろを見ても人家はまばらで、運ちゃんの姿はどんどん小さくなっていきます。豆粒大になったころ、さすがに疲れたらしく歩き出し、やがてカーブを曲がると見えなくなりました。

10分程すると曲がり角の向こうから運ちゃんが走って戻ってくるのが見えてきました。ペットボトルには1リットルのガソリンが入ってました。それをバイクのタンクに移し終えると、運ちゃん無言のままタクシーはまたけただましい音を立てて空港に向かって走りましました。

「給油くらい前もってしとけよ」 とつっこみたい気持ちは山々でしたが、息を切らせている運転手の見事な走りっぷりに免じて黙っておくことにしました。

ちなみに中国の自動車やバイクに付いている燃料計の80%は壊れて役に立たないので、こういうこともいつかは起こると思っていましたが、走ってガソリンを買いに行くとは思いませんでした。